クルド国家は実現しない🇹🇷③(トルコ・エルドアン大統領の対クルド戦略)
クルド人はトルコ・シリア・イラク・イランの四カ国に分かれて住んでいますが、クルド勢力というのはざっくり分けると
の二つに分かれます。
エルドアン大統領のクルド戦略は結構シンプルで、
①クルド国家は承認しない
②共産主義勢力は潰す
の2点です。
エルドアン大統領は常にシンプルなんですが、シンプルすぎて大前提が理解されていないのが残念なところ。
彼はイスラム主義者であり、イスラム的公正を謳うトルコの政党、公正発展党(AKP)の党首です。なので、
クルド人であろうと、アラブ人であろうとスンニ派ムスリムは同胞として受け入れる
というのが前提になっているんです。
これを理解していると、エルドアン大統領の対クルド戦略、更には現在行われている中東再編のやり方も理解しやすいと思います。
シリアに置けるエルドアンとオバマのにらみ合い及びロシアの絡みについては↓
中東再編の簡単な構図については↓
そもそもクルド人問題って何?ってことへの概略は↓
をご覧ください。
尚、わたしは、『彼が正義』だと思っているわけではありませんが(わたしは、そもそも唯一絶対の正義など存在しないという立場)、エルドアン大統領は偉大なリーダーであり、個人的にエルドアンさんかっこいい💖と思っています(後、西側メディアのエルドアン叩きに多少反感も持っている)ので、少々トルコ=エルドアン寄りの発言が多くなっております。
◉対イラク・KRG
クルディスタン地域政府は国家主権こそイラク政府に(形式上)ありますが、内部はトルコ資本が相当に入っていて、トルコとの経済的な繋がりによって経済的な自立と自治が可能になっています。逆を言えば、トルコはKRGとの繋がりで相当の経済的恩恵を受けているので、絶対にKRGを切れない。
つまり、①クルド国家は承認しないけれども、クルディスタンが独立を言い出さない限りにおいては、同じスンニ派ムスリムの同胞国家として友好的にやっていく。ということです。
バルザニ議長の退陣は、トルコを裏切ろうとした(エルドアン訪米でトランプと物別れに終わったのを見て住民投票に踏み切った)バルザニにそういう形で落とし前を着けさせ、独立を煽らない後継指導者とうまくやっていくというトルコ・イランの工作があったのかなと考えています。
そもそも、クルド人と言っても一枚岩ではなく、宗教も色々、教育レベルによっても個人の考えが色々あると思います。
例えば、クルディスタン地域政府とイラク国軍の紛争のなか、ペシュメルガへの参加よりもイラク国軍の仕事を選んだクルド人の話↓。
イラク政府軍側のプロパガンダ臭いけれども(Al Monitorはアラブ系アメリカ人の作ったメディアらしい)、実際にこういう例はあると思う。ペシュメルガは自警団〜民兵みたいなものだし、アラビア語が十分話せて軍人としてやっていくつもりなら、国軍でキャリアする方が未来があると判断する人がいてもおかしくないんじゃないかな?
「クルディスタンが独立する」
って言うとすごく良いことのように聞こえるけれども、実際には
「イラクが分裂する」
ってことで、それなりに教育を受けたリアリストであれば、当然国力が弱くなり、分けるパイも小さくなると思う人もいると思う。
ということは、すなわち、イラクという国の弱体化によって
「イランとトルコがイラクを分割統治する」
という結果にしかならないわけです。
イラク人として主権を持ち、イランやトルコに意見する権利を持ちたければ、野合でもなんでも一緒になるしかない。イランとトルコが分割するにしたって境界線でモメるし、イラク政府(シーア派)が存続するにしてもモメる😢
サイクス=ピコの呪い、というか、人工国家だから仕方ないけど😢
どちらにしろモメるけれども形式的にはイラク政府を存続させてうまく連邦化し、シーア派地域をイランが、KRG含むスンニ派地域をトルコがふわっと後見するというのが現実的なのかなと。
でもそれじゃあイラク中央政府は不満があるので、そこで出てくるのがサウジだったりしますよね↓。
歩み寄るサウジとイラク、イランへの対抗で https://t.co/xYSqJ8tBoP
— ウォール・ストリート・ジャーナル日本版 (@WSJJapan) 2017年8月24日
サウジはイランへの対抗のためなら多少の資金援助は厭わないでしょう(実力がないので資金援助しかできないけれども)。
国家分裂の危機を切り抜けるにはトルコ・イランに助力を乞わないとやっていけないけれども、イランの『言いなり』になるのは嫌なイラクのアバディごころ(イラクの首相です)💔
それでもイランに頭が上がらないアバディごころ💔
「イランとトルコがイラクを分割統治する」
というプランについては、アスタナ合意やエルドアン大統領のテヘラン訪問で結構話し合われているんじゃないかなあと思います。
スンニ派はシーア派を治めることができるけれど、シーア派はスンニ派を治められない(←実際ISはそれで出来た)
という前提があるので(この辺はまた別記事で書きたい)。
プランとしては、KRG(スンニ派クルド人が多い)とKRGの南のスンニ派アラブ人地域まで(かつてのオスマン帝国領)をトルコが勢力圏とし、シーア派が多い南部(かつてのペルシャ帝国領)をイランの信託を受けたイラク政府が統治するというのが現実的かと。
イランは領土的野心はあまりなく(そもそも本国も広すぎるくらい広いしとんでもない多民族国家)、とにかく地中海までのルートが確保出来れば良いのでその辺は譲ると思う。
トルコは、周辺のスンニ派ムスリムの地域(旧オスマン帝国領)に無用な争いごとが起きると国内が混乱する(難民が何百万人もいる上に、完全にテロリストの通路になっており、国内の治安維持がめちゃめちゃ大変)のでとにかく紛争を鎮火させて国内の混乱を治めたいというのがあると思う。
トルコの場合もイランの場合も、領土的野心じゃなく、
勢力圏を拡大し周辺のゴタゴタを未然に防ぐ
という消極的帝国主義なんですね。大陸国家って大体そういうところあると思うんだけど、トルコもイランも国内だけでも統治が大変なので外からゴタゴタが入り込んでさらにややこしくならないようにとりあえず国の周辺部を抑えておく。
トルコもイランも中東の中では比較的真人間が多いので、とにかく、アラブ人を統治するというのはめちゃめちゃ大変だと思われる😓(この記事の後半参照↓)konsabashufu.hatenablog.com
アラブ人というのは、
の一言でどんな冒険も辞さない破天荒な人たちですからね。
コロンブスより何百年も前から船でインド洋を渡り、フィリピンまで行ってお商売してた人たち。
論理が通じない😓というか、
ロマン>>>(超えられない壁)>>>ロジック
がアラブのデフォルトじゃないかと思います。
アラブ人というのはそもそも、気候条件の厳しい砂漠でラクダを飼って生活してた人たちだから、砂嵐が来たら一巻の終わり。長期展望を持って街づくりコツコツやるっていうよりも一発博打打って井戸を掘って水出たらラッキーみたいな(水が出たらアッラーのおかげ😅)性質の人が残りやすかったんでしょう。
こんなこと書くとアラブ人disみたいなので付け足すと、そんな厳しい環境でそもそもあまり物がなく、お金もあんまり役に立たないからその分人を大切にする人が多く、人懐っこくていい人が多いなぁと思います。
友情に厚いだけでなく、客人も大切にもてなすし、家族内でも子煩悩だし高齢者も大切にする、一緒にいて居心地のいい人たち。そして、カオスな人格(約束ぶっちしたり遅刻したり平気でする)なのにいつも身だしなみが完璧で家もめちゃめちゃ綺麗に片付いています。
アラブ人のママ友の家に行ったことがありますが、おしゃれで綺麗なインテリア且つ、
物がない
のにびっくりしました。特に本がコーラン(&ハディース)しかない😅
ヨーロッパでも、男女共にアラブ系の同性同士で集まって何時間もお茶飲みながら話してますし休日は家族連れでお出かけしてるのを見ます。それだけ家族や友人など、物ではなく人を大切にする文化・習慣があると思います。
そこで出てくるのがトルコが後押しするアラブ人中心のシリアの反政府武装組織です。
◉対シリア・クルド共産主義勢力
トルコは2016年の8月から本格的にシリアへの軍事介入を開始しましたが、軍事介入開始前から基本的立場は、一貫しており、
ということです。
この記事↓にはトルコ政府については書いてありませんが、トルコ政府はこのようなスンニ派戦闘員(シリア人民兵)を言ってみれば子飼いにしており、ロシアと交渉しながら(エルドアンはアサドとは交渉しない←)妥協点を探り、順次動員する。
民兵だけだといまいちうまくいかないのでトルコ軍も入る。というのが基本的な方針です。ここで問題になるのは
『穏健な』スンニ派戦闘員の定義
です。これはトルコの場合比較的はっきりしており、
トルコ=エルドアンに従うかどうか
だと思います。
アルカイダ系の旧ヌスラ戦線が駄目なのも、アルカイダが云々というよりも、妥協的でないサラフィスト(サラフィー主義者)であり、エルドアンよりもシャリーアに従うというような融通の効かない連中だからだと思います。
要するに、ざっくり
というわけ。なので、
「ジハード主義者だけどエルドアンはカリフだからエルドアンに従う」
という人間はジハード主義者だけど穏健派にカウントされるわけ。
*この辺は全く取材に基づかない個人の想像ですので信じる信じないは自己責任でお願いします。*
カリフは血筋を問わず誰でも相続できる
という宗派だということです。
つまり、スンニ派のカリフというのは、
改宗すれば明治大帝でもOK🙆
という説もあったくらいらしい↓😅 (真偽不明ですが)
まあ、要するにエルドアン大統領というのはスンニ派ムスリムの世界観において現在最もカリフに近い人間であり、彼がその気になれば過激派ムスリムも一気に穏健に出来る(従わせることができる)ということです。
また、エルドアン本人も
『カリフに相応しい振る舞い』
を念頭に置いて内政・外交を行っている節があります。
例えば、この記事↓の冒頭でご紹介した国連の一般討論演説などはその典型です。
彼の政治理念の根本は一貫して
『イスラム的公正』
であり、その行動・言葉のひとつひとつがムスリムの琴線に触れるものらしい。
その一つが今も続くカタール危機における行動↓にも現れています。
窮地に陥ったカタールに支援をしながらもサウジアラビアとも敵対せず、双方にムスリムの同胞として分け隔てなく対話の姿勢を示す(しかも素早く←重要)のがエルドアンスタイル💁
あくまでカリフらしく、国益云々よりも
というのが国内外問わずムスリムからの圧倒的支持に繋がっているし、ヤンチャなジハーディストを手懐けるカリスマになっているのです。
クーデター未遂事件の後の演説会の様子↓。
一瞬北の将軍様かと思うよね😅
国内の支持が厚い理由は、イスラム的なロジックもあるけれども、何より経済(いわゆる開発独裁)が大きいのかなぁと思います。
エルドアンの内政はざっくり言うと
エルドアンの外交は
1から10までムスリム同胞団的な政権(実際エルドアンはムスリム同胞団出身)と考えると分かりやすいかも。
同胞団的な政権は様々なイスラム教国家で今までたくさん出てきて潰れてきたけれども、たまたまトルコはエルドアン大統領という実力とカリスマがある指導者が現れたので成功したのでしょう。
∵カリフが出たので成功したのかも。
ヤンチャなジハーディストも心酔するカリフ(仮)であるエルドアン△は、とにかく『穏健な』スンニ派シリア人戦闘員を動員して支配域を広げつつ、『過激な』ジハーディストを懐柔してこっそり傘下に入れ(この時点で彼らは『穏健な』スンニ派部戦闘員になったと見なされる😅)、宿敵であるクルド人共産主義者(共産主義=アテイスト(無神論者)なので、サラフィスト的には巨悪)と戦っているわけ。
つまり、こちらもロジックとしてはシンプルで、トルコ軍とジハーディストを動員して
②共産主義者は潰す
けれども、
ということなんです。
まとめると、
①クルド国家は承認しない=国家としては承認できないけど、それ以外は同じムスリムの同胞として仲良くしましょうね💖
②共産主義者は潰す=けれども、同じスンニ派ムスリムなら、クルド人もアラブ人もトルクメン人も、仲間として受け入れますよ💖
ということです。
(勿論盛大にタテマエだとは思いますが、そういうロジック)
エルドアンさん大好きだから、たくさん書いちゃった😅
でもさ、かっこいいよね?💖
強権だとか独裁だとか言われるし、親族への利益誘導とかも叩かれていて確かに個人としては賛否ある方ですけれども、そもそも完璧な人間なんていないんだし、実際今の中東には擬似カリフみたいな彼の存在が不可欠なんじゃないかな?と思っています。(し、実際結構彼が出てくると治まる)
エジプトがチャイナマネー目当てにウイグル人留学生を中国当局に売り渡したときも、トルコが大量に(数百人単位で)引き取って保護(しかも即日だった)したということもありました↓し。
『イスラムの保護者』=カリフ
として頼りにしているのは確かなのかなと、エルドアン大統領の国連演説へのYouTubeコメントを見ていて思いました。
カリフ制やイスラム主義で治まるんだったら、別に中東はそれでいいのになぁと思うけれども、イスラム主義はイスラエルが絶対許さないからムスリム同胞団系が政権取る度に(主にアメリカ主導の)軍事クーデターで潰されてきたんですよね。
今後アメリカが力を失ってきたら、イスラエルだけでイスラム主義政権を抑えられるのかなぁ〜っていうのは疑問になるので、第二次アラブの春みたいなので同胞団系イスラム主義政権がボコボコ出来る(&今度は軍事クーデターで潰されない)可能性もなくはないのかなぁ?
エルドアン大統領「カリフ制トルコ、始めました」
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